商業法人登記とは
商業法人登記とは、会社法に定めるところにより、株式会社などの法人について、設立から清算(消滅)にいたるまで一定の事項を登記することにより、法人の存在・内容を社会一般の人に公示し、取引の安全を実現する制度です。
個人には住民票や戸籍がありますが、会社にはこれらがありません。代わりに「登記簿」があり、商号・本店の所在地・設立年月日・会社の目的・資本・役員などが記載されています。
登記簿に記載された事項から、契約相手の会社がどのような営業内容か、代表者が誰なのか、ということを事前に確認することができるので、取引の安全に役立っています。
会社法で定める様々な手続きは各会社が行い、法務局等の公的機関で直接管理するものではありません。商業法人登記制度は、間接的に会社法上の手続きを強制し、これを公開することによって会社法制を具現化している制度であるとも言えます。
司法書士は、商業法人登記制度を通じ、会社法の専門家として企業法務のお手伝いを行います。
商業法人登記を司法書士に依頼する理由
申請できる法務局は県内では1カ所だけ
青森県内で商業法人登記を扱う法務局は、かつては県内全ての支局・出張所で取り扱っておりましたが、平成23年8月22日からは青森市にある本局1カ所に統合されました。実務が専門的で複雑になっており、人員削減が進む支局で取り扱うのが難しくなってきたためです。取り扱わないのですから、支局には国費をかけて参考図書を整備したり、担当職員を配置しません。作った書類を見てもらうために近くの支局に行っても、職員は実務を知りませんので、青森市の法務局に相談するように言われます。
司法書士に依頼しないで登記の申請をした場合、申請書と添付書類に不備があるだけでなく、会社法の解釈を誤っていることも多く、そのままでは受理されない事件が法務局に山ほど積み上がっています(体感的に8割)。この中の相当数が取り下げ手続きに移行し、後に再度申請されることが非常に多いのが現状です。
1 罰則は会社の信用を傷つけることがある
登記された項目に変更があった場合、取引の安全のためには直ちに登記がなされるのが理想です。たとえば、社長が解任され、変更の登記がされない間、登記上の変更前の社長を代表者として信じて取引きを行った取引先に損害が生じた場合はどうなるのかといった問題が生じるからです。
そのため、変更したことを申請しない場合、取引の相手方が不利益を被ることが想定されるので、罰則を設けて登記を強制する必要があるのです。現実には、即時に登記申請することは無理なので、妥当な期間として原則として2週間以内に登記をしなければならないと定められました。
実際、実に多くの方が裁判所や検察庁に出向いて結構な金額の過料を支払っておられますので注意が必要です。
登記記録を見れば、会社法で定められた義務を果たしておらず、法令遵守に関心の薄い会社だと印象づけされ、取引や銀行融資などで不利になることが考えられます。法人の代表理事が叙勲の選考から落ちたという話もあります。
期間内に申請しても、不備で受理されなかった場合は登記申請も無かったことになるので、簡単に2週間を経過してしまいます。会社法や商業登記法は頻繁に改正され、前回申請したのと同様の方法では通らないことが多くなっているので、注意が必要です。
2 プロを相手とした会社法と商業登記法
変更の事実が生じた後、直ちに登記の申請をしなければなりません。当然、変更の事実は会社法の規定に従って有効に生じている必要があります。
登記申請書には法的に正しいことを記載し、定められた範囲の証拠書面を添付します。法務局では、会社法が作成を義務化した議事録等の書類を添付させることで審査しますが、添付書類の種類は法律で限定されており、余計な書類が添付されていても審査の対象になりません。
そのため、どこかに認識違いや誤りがあると、変更の登記をするべきでないことが登記されることが考えられます。その責任は法務局ではなく、誤って申請した会社にあります。事実でない登記が放置されれば、将来、経営上のトラブルが発生した際に、無効を主張されたり、退任した役員が、退任後に生じた経営上の責任を負うなどの問題になることがあります。登記は書類さえ整えば簡単に出来ると流布されることがありますが、そのような風潮は危険なことです。
会社を作ると言うことは、会社法の手続きを遵守する義務(罰則あり)を選択したということです。国が用意した会社法というインフラを利用しているとも言えます。税務上有利だというだけで、勧められて会社にしたというのは通用しません。
会社法は、会社というプロを相手にした制度ですから、商業登記法はプロの便宜が優先され手続きが簡略化されています。書き間違う人が多いだろう、会社法をよく知らない人が多いだろう、といったことを考慮する必要がありません。商業登記の制度上、不実の登記を完全に防止しようとすると、申請する側にとっては手続きが煩雑になりますから、経済界の要請もあって、証拠書類の一部のみに限定して添付させる制度形態となっているのです※。したがって、法務局では申請書や添付書類に現れない事実については、正しく行われていることを前提として審査します。申請内容が不自然だなと感じても、絶対あり得ないのでない限り登記されるのです。
各会社は、登記申請書の添付書類として要求されていなくても、最低限、会社法で定められた文書を作成し保管しなければなりません。それだけでなく、トラブルに遭遇した時に不利にならないためにも、各会社の実情に応じて事実を証拠として残すことも必要です。
※悪用事例に対処するための改正で、年々複雑化しています。
3 会社の信用のために法令遵守を
中小の会社では、会社法が定める手続きを意識していないことが多いかもしれません。そのため、登記申請の際に表面化し、会社法違反を問われて過料に処せられる事例が後を絶ちません。税務での不利益や訴訟リスクも考えられます。
4 商業法人登記制度は経済社会の基盤
安全な商取引には商業法人登記制度は不可欠です。商業法人登記制度は、我が国にある会社が収益を得るための必要設備であり、我が国の社会基盤です。法務局はその管理人に過ぎません。この共有財産を維持するのは会社経営者の皆様であって、それは速やかに正しい登記申請を行うことで実現されます。
▶司法書士は企業法務の専門家
企業規模の大小に関係なく、その設立から解散(清算結了)に至るまで会社法に従って運営されることになります。企業は、すべての場面において様々な法律によって規制され、法の一般的枠組みの中で許された範囲内において経営を行わなければなりません。
このようなことから、「企業法務」とは企業経営に係わる法律上の業務の総称であるといえます。
司法書士は、従来の商法による規制的要素の強い社会から、会社法の施行によって事後救済型の社会に変革しつつあるわが国において、予防法学的立場から、企業外部のものとして、企業法務の問題に対応できる有資格者です。
なぜならば、司法書士は登記簿で会社等の内容を公開することにより、その会社等と取引をしようとする人が思わぬ損害を被ることがないように、取引の安全と円滑化が図る商業登記制度に精通した専門家だからです。