不動産登記

 不動産登記とは、土地や建物の権利関係に変化があった(例えば、売買により所有者が変わったなど)時に、法務局が管理する「登記簿」にその変化を記載する手続きのことをいい、また、これらの登記情報は、誰でも見ることができるよう一般に公開されています。

 登記を専門家に依頼する理由

1 登記はしなくてもよい?

不動産登記は、現実に権利関係に変化があってから(実際に所有者が変わってから)、その経緯と権利の内容を当事者が申請し、法務局の職員(登記官)が審査の上、登記簿に記録します。したがって、登記をしなくても契約は成立するし、登記がなくても原則として契約と同時に所有権は移転して買い主のものになります。

登記は一般的には速やかにすべきですが、我が国の登記制度は、不動産登記はするもしないも任意ですし、期限もありません。登記しないと自分のものにならないし、買ったことにならない制度としている国もありますが、日本の制度はそうなっていません。
むしろ、登記をしない方がいろいろな事情から利益と考える方もいますし、手続きが出来ない事情があるかも知れません。誰かの権利がついていて、その人の承諾をもらえないために登記できないこともあります。土地を買ったが登録免許税が捻出できなければ登記できません。
ご自身が法務局で手続きをされると、とても冷たい扱いだなと感じられることがあります。民事裁判もそうですが、登記制度はこの「任意性」から組み立てられているため、役所の手続きに対して一般の方がお考えのことと相当なギャップがあるからだと思います。


2 登記は早い者勝ち

土地を買った場合を例にすると、登記をする本来の理由は、売買契約で所有権が買主に移ったことを知らない第三者に、買主が自分に所有権があるということを主張するためなのです。

一つの不動産を二重に別の買主に売ることも実は可能です。わざとでなく何らかの手違いで、結果的に二重売買になることもあります。損害賠償責任を問われることはともかくとして、この場合に誰が確定的に所有権を取得するのかといったら、通常は、先に登記をした者の勝ちとなるのが我が国の制度なのです。


3 歴史ある登記制度

登記制度は明治19年8月13日法律第1号、我が国の最初の法律として施行され、現在まで膨大な数の通達や判例、先例の積み重ねがされ、時代の変化に即しながらも論理的一貫性を保たれた運用が現在に続いています。
登記制度を学ぶことは過去から未来への時間軸のみならず、その時代の社会上の要請など、考慮すべきことは縦横に広がるもので大変奥深いものです。民事法上の概念を可視化する技術的ともいえる制度ですが、学術的研究の対象にもなり得るものです。

法務局の現場には、先例に直接適合しない登記事件が毎日のように申請されています。受否の決定には、制度の創設時からの論理的一貫性、登記を信じて新たに利害関係を有することになるであろう第三者、その時々の全国統一の取り扱いや社会の変化を加味しながら未来へ継続させることも考慮するなど、法務局の職員(登記官)は公平的観点から、実に様々なこととの整合性と妥当性を見いだし、最終的には自らの責任で登記を実行します。


4 登記の避けられないリスクと司法書士の役割

法務局における登記の処理は、職員の努力もあり、スピーディーに処理をしていると評価できます。しかし、申請をしてから完了されるまではどうしてもある程度の日数を要します。このタイムラグによって様々なリスクが生じるのです。

例えば、二重に売買されて先に登記されてしまったり、寸前に差押えが登記されることがあります。
こちらが先に申請しても、申請の誤りなどの問題があれば、後の登記が実行されてしまいます。売買代金を渡したのに自分のものにならないことがあるのです。渡した代金の回収も困難になります。非常に怖いことです。

自信を持って申請しても、登記官が専門的な見地から審査した結果、受理されないこともあります。申請書の文字一つの違いでも全く違った意味になることがありますが、極端な例ではありません。司法書士であっても、実際に登記が完了するまでの数日間は安心出来ないのです。

司法書士は取引の現場に立会い、確実に登記になると宣言し、その場で代金決済にゴーサインを出し、直ちに登記申請をします。安全迅速な取引のための重要な役割を担っています。それでも100%確実ということはないので、万一損害が生じた場合に備え、損害賠償責任保険への加入もしています。


5 厳格な手続きのルール

登記簿は誰でも見ることができるよう一般に公開されます。各種行政手続きや徴税などでの利用などでも、常にリアルタイムで活用されています。そのため、登記官は申請された事件を速やかに処理する義務があります。申請する側も、登記申請の補正を命じられた場合は、直ちに補正をしなければなりません。応じなければ却下されます。都合で一週間先に補正に出向きたいとかの特別扱いが出来ないのは、登記は先後を競いますから、全ての登記事件を同じ土俵で取り扱うために必要なルールなのです。


6 事実と異なっても登記される

登記簿は不動産を取引する際の公的な書類として活用され、取引の安全を図る役割を果たしています。道路や橋のように、社会的基盤の1つといえます。

事実に反したり、本人以外の者からの成り済ましによる登記申請でも、体裁に問題が無ければ受理されるし、法務局は受理しなければなりません。こういうことを登記の「書面主義」といいます。
そのかわり、直接顔の見えない郵送での申請はできず、法務局に当事者本人またはその代理人が必ず出頭することが義務づけられていました。不正な申請に対して相当な抑止力があったはずです。それが、平成17年の法改正で、郵送やインターネットで誰とも顔を合わせずに登記申請することが可能となりました。利便性向上のための要請でもありましたが、以降、登記は簡単に出来ると流布されやすくなります。

不正な申請はもちろん、事実と異なるが、あわよくば登記が通ればよいとか、法的にどうなのかよく分からないまま申請するといったことが増えれば、登記制度の信頼が揺らぎます。そのようなことが無いように、関係者は日々努力しているのです。

直接当事者と面談して事実と法律構成が一致しているかを審査して受否を決定する「実質主義」を採用する国もあります。書面主義を採る我が国で登記制度が安全に機能するためには、実質主義を採る国と同等に考慮しなければならないことがあります。やはり手続きのどこかの段階で、当事者と面談して意思を確認することであって、これが本人による郵送申請ができるようになった昨今、いずれ、重大な事故・事件が報道されるであろうことが危惧されます。

司法書士は、登記制度発足時から、制度の要請及びこれを受けた職務上の義務にて本人確認を行い、ご本人の真意を正しく法律的に整理・表現することで、登記の信頼性維持に貢献しています。


7 司法書士の使命

登記の書面主義を採用し、司法書士制度がある我が国では、他国に比べ、随分少ない人員と低廉なコストで、迅速な登記行政が実現しています。
登記制度は国民の共有財産であり、法務局の登記官はいわば管理人であって、交通整理役に過ぎないと思います。我々国民は、法務行政に対立するのではなく、ルールに従い、速やかで正しい申請を行って行政に協力する姿勢を持つことが必要ではないでしょうか。

司法書士は、ご依頼者らの真意と事実を正確に把握し、法律に照らし合わせて本来の目的がかなえられるようにするのが使命です。このように、登記制度の実質的な担い手として、不動産登記に関わる様々な場面で、迅速かつ適正な手続きを行い、皆様の大切な財産を守ります。
→登記の本人申請