相続放棄について

▶親類縁者が亡くなった時のために、今から相続放棄を検討しましょう

→相続放棄の手続きと費用

「相続放棄」と言えば、以前は借金を相続しないために活用されてきたものです。近年は、相続人としての法律上の権利と義務、そして面倒な事務手続きから解放される手段として、また、他の相続人との関係をもちたくないときに、自分だけの意思で比較的安いコストでできるとして活用されるようになっています。

空き家、不要な土地の相続人の責任を問う施策が続々誕生しています
空き家、不要な土地が放置される問題が注目されています。
本来、子供達が責任を負う必要はないはずです。国策として農業より商工業を選び、都市部への人口集中を進め、人口減少することが明らかにもかかわらず経済のために新築住宅を増やし続けた結果だと思います。
とうとう民法や不動産登記法が改正され、相続登記が義務化されました。
要は、相続人などへの管理責任追及のために、相続人が誰であるか、簡単に分かるようにしようという方向です。

そろそろ、親戚縁者が亡くなった場合にご自身が相続人になる可能性があるのかを調べ、その時になって遺産分割協議の話が来るまで持つか、その時に相続放棄するか、今のうちに検討しておくのが賢明です。
ただでも売れない不要な実家を相続したくない
(相続の放棄をした者による管理)旧民法 第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

とはいうものの、相続放棄をすれば不要な空き家の負担から必ず解放されるのかというと、相続放棄した人でも「管理責任」が継続することになっていました。庭木の剪定や草取りをしていくだけでなく、火災等が発生して隣家に被害が生じた場合に責任を追及されるおそれがあります。空き家の火災保険料は高額です。

これが、令和5年4月1日、次のとおり改正されました。

(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は民法第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

「占有」とは、自己のためにする意思で物を所持することをいい、家屋に現に居住している場合には、家屋を「現に占有」しているに違いないでしょう。
居住していなくても、近隣に迷惑がかからない程度に定期的に除草する等の管理している場合はどうでしょう。「現に占有」しているとみなされ管理責任が発生するかも知れません。しかし、ただでも売れない不動産ですし、やむなく地域のためにボランティアで除草している程度の意識なのに、高額な費用がかかるかも知れない管理責任を負わされるというのはあまりにも理不尽と思います。
いずれにしても「現に占有」とみなされないように注意が必要です。

また、相続放棄をすれば、次順位の相続人(叔父叔母・いとこなど)に不要な実家の相続を押しつけるような結果になりますが、知らせる義務はありません。
気になるようでしたら、相続放棄したことを知らせ、同様に相続放棄の手続きをとるかを考えてもらうにとどめるだけでよろしいと思います。

全員が相続放棄をしても 管理責任の心配はあるので、完全に解放されるためには、「相続財産清算人」の選任申立をすることです。相続財産清算人が選任されれば、管理責任は相続財産清算人が引き受けることになります。ただし弁護士が就任するのが通常で管理費用や報酬に引き当てる予納金の納付が必要となり、30万円から100万円程度を要するようです。

相続が発生してから3ヶ月以内に以上の決断をするということは難しいかも知れませんので、今からの検討が大事になってきます。
また、遠縁の親族が所有していた不動産に関する問合せが市町村から入ることがあります。生死すら知らずにいた叔父叔母の相続人にいつの間にかなっていたというような場合です。この場合は、相続放棄だけはしておけば、固定資産税の支払いからは解放されます

これからは、日本国中に誰も管理しない空き家が続々増えて行くのは避けられません。最後は行政の負担、つまりは税金を使って解決していくしか無いのです。

→相続登記が必要な理由
遺産分割協議の煩わしさから解放されます
相続人間に確執などがあると、相続の手続は背後の人間関係も巻き込んで相当なストレスになりますし、確執を更に強めることにもなりかねません。
もらえるものはもらいたいと思われるのも無理はありませんが、そうなると話がこじれる可能性が非常に高くなります。
他の相続人の誰か一人でも了承しなければ次は裁判(調停)になることがあり、裁判所から各相続人に呼び出しがかかります。
関わりたく無い場合、相続放棄をすれば最初から相続人ではなかったことになるので、このようなストレスを抱えずに済みます。
→遺産分割の煩わしさから解放される相続放棄
見知らぬ親族と遺産分割協議 しかし借金の有無が不明
疎遠な親族とで、「預金や不動産も一切受け取らない代わりに、借金も背負わない」との遺産分割協議をしても、借金返済の義務は消えないし、債権者との関係では効力がありません。借金の有無を知ることは難しいですし、後々面倒なことに巻き込まれたくなければ相続放棄をすれば安心です。
→遺産分割の煩わしさから解放される相続放棄
借金や保証債務の相続から解放されます。
亡くなった方に借金があった場合や誰かの保証人になっているかもしれない場合に相続をしてしまうと、その返済義務まで相続したり、引き継いで保証人になってしまいます。相続放棄をすることでこれを免れることができます。
亡父が事業をしているような場合は何らかの保証人になっていることが多く要注意です。
事業の承継
家業を長男が継いでいる場合に、家業のための財産が散逸するのを防ぐために、他の相続人の取り分をゼロとする形の遺産分割協議をすることでも対処できます。しかし、亡くなった方に借金があった場合には、その借金も長男のみが相続すると定めても、債権者との関係では何ら効力がありません。そこで、他の相続人が相続放棄して長男一人に相続させるという方法が有効です。
相続人の一人に借金がある
借金を抱えた相続人が遺産分割の協議に加わると、「遺産を相続する意思がある」と判断され、債権者から差押をされる可能性があります。
遺産分割の協議をする前に、借金のある相続人が相続放棄すると、遺産の差押を回避でき、他の相続人の取り分が増えます。しかも相続放棄は債権者を害する行為にはなりません(民法424条2項)。

相続放棄の注意点

  • 相続放棄をするためには、相続開始(被相続人の死亡日の翌日)から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述する。
  • 相続放棄が認められない場合がある。3ヶ月経過後の相続放棄ではその可能性が高くなる。※ただし、後になって借金が発覚したような場合など、3ヶ月経過しても認められる場合はあります。
  • 相続の順位に従い、最初の順位の相続人全員が放棄した場合、次の順位の人(例 叔父叔母やいとこ)に相続の責任(借金返済の義務)が転嫁される。
  • 相続する財産を選ぶことはできない。「全て相続する」か「全て放棄する」ことしか選ぶことはできない。

自分の家族や親戚などが借金などを作っているなどの話を聞いた場合には、速やかに調査が必要です。
迷惑をかける空き家など、持っていても困る土地建物を所有しているかを調査する必要もあります。

3ヶ月経過後の相続放棄では陳述書の書き方があいまいだったり、憶測で判断されてしまうと、家庭裁判所に相続放棄の申し立てが受理されないこともあります。
人生を変えてしまうリスクを確実に回避するためにも、お金はかかりますが、専門家に調査、手続きを依頼されると安心です。

→遺産分割の煩わしさから解放される相続放棄
→相続放棄の手続きと費用