遺産分割協議書の作成

▶他の相続人と交流がない

「他の相続人の方とは交流がなく、今回の相続について、他の相続人の方がどのような考えなのか、わからない」といった場合ですが、次の記事を参考にしてください。

→手続きを無視された場合

▶透明性を確保して協議する

透明性を高めるため、財産目録を全相続人に開示するべきです。
紛争が生じたときは、裁判所へ調停の申立てをしたり、各自が弁護士を代理人に立てる等して、解決にあたっていくことになるでしょう。

遺産分割協議とは

遺産分割協議書は法律文書ですので、客観的に分かるように具体的(突っ込みどころのないように)に記載しなければなりません。自分が分かっている前提で作文しても、第三者が見れば具体的で無いことがよくあります。字句の省略や誤字などちょっとした違いで、後から問題になることがあります。
また、しばらくしてから財産が発見されることもあり、再度遺産分割協議ができるのか、難しい場合はどのような表現にするかなどを検討する必要も生じます。
「全ての遺産を○○が相続する」という協議書はとてもシンプルで相続人間で何の問題も無ければ簡単でお勧めです。

遺産分割協議とは、相続人全員で遺産(プラスの財産・マイナスの財産)の取得者・承継者を決める約束です。決まった内容を書面にします。この書面を遺産分割協議と言います。
遺産分割協議は、相続人全員の参加と合意が必要なので、相続人の一部が欠けていたり、一部の相続人の意思を無視して行ってしまうと、その話し合いは無効となってしまいます。決められた書式はありませんが、誰がどの財産を取得したのか提出先(銀行・税務署・法務局など)にも分かるようにします。
数ページに渡るものは割印を押し、自署し実印を押します。作成部数は、最低でも名義変更用(使い回し)と控えの2部を作成するとよいでしょう。
いろいろな手続きで必要になるだけでなく、相続人の間で、そのつもりで無かったとか、後々のトラブルの原因とならないように具体的に明記します。また、財産を特定できないような曖昧な表現はしないことです。
話し合いがつかない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てることができます。

遺産分割協議と併用して行う「相続放棄」
裁判所で行う「相続放棄」の手続きをとった相続人は、初めから相続人でなかったことになるため遺産分割協議に参加する必要がなくなります。借金返済の義務はもちろん無くなります。
一方、「預金や不動産も一切受け取らない代わりに、借金も背負わない」との遺産分割協議をしても、借金返済の義務は消えません。また、話がまとまらず裁判(調停)なれば、「預金や不動産を一切受け取らない」と書いた相続人も、裁判に巻き込まれることがあります。
→【おひとりさまの叔父叔母、疎遠な親族の相続での「相続放棄」】

配偶者が亡くなり、全ての財産を他の配偶者が取得する遺産分割協議

夫または妻が亡くなった場合、全財産を生存配偶者が取得する内容の遺産分割協議を提案すると、子どもたちは特に問題なく承認するかと思います。
問題は、次に相続が発生する際、つまり全財産を相続した生存配偶者が亡くなった時は、子供達だけで遺産分割協議を行うことになります。いわばお目付け役がいない状態ですから、争いになる可能性が高くなります。そのため、公正証書遺言が効果的です。
相続手続きが終わり、ほっとしてから引き続きご検討されることをお勧めいたします。
→遺言書の作成

▶遺産分割協議が必要な場合

遺言がない場合、又は遺言があっても次の場合には遺産分割協議が必要になります。
1.遺言からもれた財産があった場合
2.遺留分減殺請求をされた場合
3.あえて遺言を使わない場合

▶期限

遺産分割に期限はありません。それまでは相続開始時から相続人全員の共有財産になります。取得者を決めなければ、いつまでも共有財産のままです。この状態で相続人が死亡した場合には、さらにその相続人が遺産分割協議に加わることになり、員数が倍々に増え、事情を知らない人が加わる可能性が高くなります。
相続税の対象になっている場合は10ヶ月以内に遺産分割を行わなければ余計な税金を払うことになりかねません。

▶相続人に特殊事情がある場合の遺産分割について

1.未成年者がいる場合
家庭裁判所で特別代理人の選任手続が必要になります。なお、共同相続人である親は、利益相反になるため特別代理人になることは出来ません。未成年者が複数いる場合は、それぞれに特別代理人の選任が必要になります。
2.相続人に認知症の人がいる場合
家庭裁判所で成年後見人制度を利用します。ただし、遺産分割協議をするためだけに後見制度を利用することはできず、判断能力が正常と言えるまでに回復しない限り、生涯、成年後見人が就くことになります。家族が制度の利用を止めたいと思っても、どうにもなりません。
3.行方不明の人がいる場合
家庭裁判所で手続をしますが、失踪からの経過期間によって対応が違います。
(1)失踪から7年経過しているときは、「失踪宣告」をしてもらい、死亡していたものとして扱います。
(2)失踪から7年経過していないときは、「財産管理人」を選任してもらいます。その後、上記と同様に7年経過すると「失踪宣告」を受けます。
4.相続人に借金がある場合
一部の相続人が、自分の資産では支払えない大きな借金をしていた場合などに、法定相続分の割合を下回る内容の遺産分割の合意をした場合、債権者は遺産分割の合意を詐害行為として取り消す可能性があります。
大きな借金のある相続人が、債権者に対する支払を免れるため、詐害的な遺産分割を行うというケースは少なくありません。このような詐害的な遺産分割が行われる可能性がある事案では、債権者側・相続人側ともに、遺産分割後にトラブルが生じないよう専門家に相談しながら対応することをおすすめします。
具体的には、借金を抱えている相続人に相続放棄をさせて、遺産分割の協議に参加させないことです。なお、借金を抱えている相続人は口頭で「相続を放棄する」と言っても法的には認められません。早い段階で法的処置に基づく相続放棄に関する手続きを検討しましょう。
その後、他の相続人が被相続人の財産を分配した後は直ちに「相続登記」をします。
債権者は、相続人の所有物として登記された財産には何もできなくなります。
5.相続人が海外にいる場合
海外には日本のような印鑑証明書はありませんから、海外にいる人が遺産分割協議書を現地の日本大使館に持って行き、確かに本人の署名であることを証明してもらいます。

▶遺産分割の方法

遺産分割には、次の3つの方法があります。単独で行う場合もあれば、複数の分割の方法を利用する場合もあります。
1.現物分割
現物分割とは、1つ1つの財産を誰が取得するのかを決める方法です。例えば、「A土地は配偶者。B土地は長男」といった具合に分ける方法です。
2.代償分割
代償分割とは、特定の相続人に相続分を超える財産を与え、その相続人が他の相続人に現金等(代償)を支払う方法です。例えば、長男が全ての財産を取得して、長男が他の相続人に自分のお金を支払います。
3.換価分割
換価分割とは、遺産を換金し、相続人に金銭で分配する方法です。

▶遺産の分割の基準

遺産分割協議は、遺産をどのように分けても構いません。法定相続分どおりでなくてもかまいません。したがって、相続人の中の1人が全ての財産を取得することも出来ます。
しかし、話し合いの場でそれぞれの相続人が自分の主張を譲らないとなると、紛争状態になってしまい裁判に発展しかねません。 そこで、民法906条「遺産の分割の基準」をご紹介します。

民法第906条 (遺産の分割の基準)
遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。

【趣旨】 遺産分割においては、遺産に属する個別の物または権利の種類(土地、建物、現預金、その他)や、その遺産が持つ性質(換金性など)を念頭に置いて、どのように分割するのかを決める必要があります。また、それぞれの相続人をとりまく一切の事情を考慮して分割しなければなりません。 配慮しなければならない各相続人の「年齢」とは、年少者への配慮、「心身の状態」としては、心身障害者への配慮、「生活の状況」としては、配偶者などが今まで居住してきた住居の確保が念頭に置かれています。

特別受益

過去に贈与を受けたもの(特別受益)を遺産に加えることもあります。この特別受益は、贈与を受けた財産(土地や株式など)を現在価値に直して評価します。

寄与分

寄与分を考慮することも出来ます。介護や被相続人の事業に貢献したことを評価します。これらを差引いた後の残りの遺産を分割することになります。介護の場合は、介護者のご苦労分がそのまま反映されることは少ないので注意が必要です。

祭祀財産

系譜、祭具、墳墓などの祖先祭祀のための財産は、通常の財産とは異なり、祖先の祭祀を主宰すべき者が承継するとされています。
そして、祭祀を主宰すべき者は、
1.被相続人の指定、2.指定がない場合には慣習に従い、 3.慣習が明らかでない場合には家庭裁判所の審判で決めると民法で定められています。

遺産分割がまとまらない場合

相続人間で遺産分割がまとまらない場合には、家庭裁判所の「調停」を利用することができます。調停が不成立になった場合には、家事審判官(裁判官)が事情を考慮して、「審判」をすることになります。さらに、審判でも納得できないときは、双方弁護士を立てるなどして裁判で決着をつけます。裁判で決着させると親族間で回復できないしこりが残ることは避けられないでしょう。そのため、譲り合ってなんとか調停を成立させることが肝要です。

遺産分割協議書の書式とセットで必要な証明書

役所などの第三者に遺産分割協議書を提出する場合には、相続関係を証明し、正しく関係者によって協議されたものかを証明しなければ信じてもらえません。考え方としては、
1.遺産分割協議書に書かれた人が、間違いなく亡くなった方の相続人であることと、
2.遺産分割協議書に書かれた人以外に相続人がいないこと、
3.相続の排除(民法892条)を受けていないことなどです。
これらを証明するのが一連の戸籍謄本等ですが、出生から死亡までの全ての戸籍と、そこから枝分かれしていく各相続人の現在までの戸籍について、全てをそろえて読み解く必要があり、通数が非常に多くなりますし、戸籍謄本は誰でも簡単に取れるものではありません。
また、戸籍謄本には住所が記載されておりません。通常、亡くなった方が登録されているのは住所と氏名ですから、これを関連づけるために、本籍と住所と氏名が同時に記載されて、そのつながりが分かる住民票除票や戸籍附票などの証明書が必要になります。しかし原則として住民票や戸籍附票には本籍が記載されないので、これを記載した証明書を発行するように願い出ます。なお、理由の記載が必要な場合があります。関連づけが判明しない場合の対処は、各機関で取り扱いが異なります。しかも、住民票や戸籍附票は一定期間が経過すると廃棄され発行されなくなるので、その場合の対応は提出先によって異なります。とても不愉快な気持ちになってしまうものですが、素直に従うのが賢明です。
名義変更などの手続きには、以上のように、遺産分割協議書に印鑑証明書と相続証明(戸籍謄本など)などがセットとして必要となります。

遺産分割協議書作成の注意点

財産・債務は、もれなく記載することが必要です。また代償金(ある相続人が多く取得する代償に他の相続人に現金等を支払うこと等)の受け払いについても記載します。後に判明したものがあれば、その財産・債務については再度遺産分割協議が必要になります。
財産ごとに遺産分割協議書を作成することも出来ます。例えば、土地の分だけ遺産分割協議書を作成し、後日、他の財産の遺産分割協議書を作成することも出来ます。

できるだけ具体的に

遺産分割協議書の作成にあたっては、他人に財産の全てを知られたくないとか、作成そのものの手数を省くために、相続人全員が納得する場合は「全ての遺産」という表現を使うことがあります。
一方、財産を特定できないような曖昧な表現では手続きに利用出来なくなってしまうことがあるので注意が必要です。

遺産分割のやり直し

遺産分割協議のやり直しは法的に有効ですが、課税上は贈与として認定されることがあるので注意が必要です。

その他

第三者が見ても問題無く通じる遺産分割協議書を作りましたが、これだけでは、法的に有効な遺産分割協議があったことを第三者に信じてもらえません。
相続関係を証明する戸籍謄本等、住民票、住民票除票、戸籍附票、印鑑証明書、相続関係説明図、財産目録などを収集・作成し、相互に矛盾のないようにしていきます。これらの書類がそろった状態で、やっと役所や金融機関などの第三者に遺産分割協議があったことを証明できるようになります。

→遺産分割調停の申立て