登記の本人申請 司法書士に頼むか?本人申請か?

最初に登記を専門家に依頼する理由をご覧いただくことをお勧めします。

▶申請書について

登記の申請は、どの不動産について、どのような法律的理由で不動産に対する権利が変動したのかを登記してもらうことです。規則に従って申請書を作り、法律的理由を明らかにした書面(契約書等)、法定された添付書類を登記所に提出しなければなりません。法務局は、ご本人らから話を聞いて登記するのではなく、書面のみを見て登記するのがルールです。
(もしも、話を聞いて登記するルールにすると、今の何倍も職員が必要になってしまっては国の財政に大きな影響がでてしまいます。)
申請書に書く欄があったから書き、それが、ご自身が本来望むことと違っていても、たまたま形式的に問題がなければ、申請書のとおりに登記されてしまいます。
司法書士は、ご本人の事情や本心に照らして、適合する法律的理由に当てはめ、それで将来問題が生じないかまで検討し、疑問点があれば関連法令を読み直し、申請書になぜこれを書く必要があるのか、なぜこの書類を添付しなければならないのかまで追求します。

私が法務局で相談対応をしていた時は、一般的な手続きのルールや流れ、必要時間、一般的なリスク等を詳しく説明するところから始め、個別の事情には法務局で相談に応じられないこととの一線は明確にしました。
丁寧に細かく説明したり、相当なボリュームのマニュアルをお渡しすると、「なるほど、これはちょっと大変そうだから、自分ではうまくできないだろう。司法書士に依頼しよう」と考える方が多かったようで、ご自身で申請された方は年に2~3名しか現れませんでした。一部「簡単にできると聞いてきたのに!」と憤慨される方もおられましたが。

時折、「だから、何を用意して何て書くのか、ちゃんと説明して! ここに書いて!」と、冒頭いきなり強く要望される方もおられます。
職員はトラブルを恐れるあまり、とにかくやり過ごす方向で、一定の法律判断を提示してしまうのが人情でしょう。しかし、それをやってしまうと「次はこれをやってください」というのを繰り返すことになり、職員が鉛筆で書いた申請書をボールペンでなぞらせることまでしないと進まなくなるのが常です。こうしたことが「法務局に親切にタダでやってもらった」と思われ、口コミで広がっていくのだと思います。
たまたま登記ができても、将来、どんな問題が起きるか分かりません。職員も大きなトラブルに巻き込まれれば処分されてしまいます。

司法書士は、ご依頼者とのコミュニケーションを通してその真意を把握し、本来の目的と合致するように法的に整合させて申請します。ご依頼者が短い時間でおっしゃったことやお考えのことを、機械的に書類を作るだけではありません。

▶法務局はどこまで教えてくれるのか

地方の法務局では、職員が減って広くなった事務室とたくさんの机の割には、職員がわずか数名に減っている所が多数です。そんな法務局は、人員削減と増え続ける相談でパンク状態なため、15分程度の制限付きで予約制を取るようになりました。

かつては、相談コーナーで同じ事を何度も質問したり、ご自身の胸の内を話し始めようものなら、次に待っている相談者に「早く終われ!」と怒鳴られたりしたものです。不動産や金融絡みの忙しい業者の方も来られますので、迫力があります。法務局の待合室は活気(?)にあふれていたものでした。
予約制を採ってからは、大規模な法務局では次回の相談まで何週間も後というところも出てきているようです。相談者はポイントを絞って手短に質問しなければなりません。
また、よろず相談に応じるということもなくなっています。

法務局の職員は、時間に追われながら、たくさんの事件をこなしています。当然、登記手続きの法令には大変詳しいです。しかし、申請に至る事情や他の手続きのことは知りません。むしろ、公正な登記業務のためには邪念は無用ですから、それでいいのです。

▶相続や契約の相談には応じられない

申請書の中で法的に意味がある部分には、具体的に何と書けばよいのかということには実はお答えしようがないのです。
「○○と書けばいいんですね」と聞かれても「はい、そのとおりです」とはお答えできません。
「それは、あなたが決めることです」と言うと
「分からないから聞いているんだ!」と叱られますから、
「あなたがお持ちの資料のそこに書いていることだけを見れば、それでいいんじゃないでしょうかね…」と濁すしかありません。すると、
「あいまいでなくハッキリ答えなさい!これだから公務員は!」
「…」
となりがちです。書き方の例を示すことはできますが、審査する立場の人が、具体的にこう書いてくださいとは言えないのです。そもそも、お持ちの資料以外にどういう事情があるかは本人しか知りません。
ですから、私が法務局で相談を受けた時は、どんなにせかされても、最初に、登記手続きがどういうものなのかを時間をかけて説明しました。
行政は常に批判されることを心得なければなりません。かつては接遇の至らなさがありました。その弱みを今も引きずり、そのために、制度の本質が理解されないまま、登記は簡単だ、法務局に行けば何とかなると流布され、そのことでトラブルが起きているのかもしれません。

▶担当者が気に入らない イライラする

法務局や裁判所とのやりとりでご自身の期待に添わないことを経験され、いつまでも納得できず、イライラが消えないことがあります。なんでそれを最初から説明してくれないのかと。役所側からすると聞かれた疑問点に答えることはできますが、初めて会う人の理解度を瞬時に把握して細かい所まで説明するのは到底無理なことです。あえて細かく説明を試みると、「あんたの言ってることは傲慢でサッパリわからない。これだから役所は!」と叱られたりします。また、間違いなく説明しているのにそんな話は聞いたことがない、説明の仕方が悪いと言われるのも日常茶飯事なのです。その結果、ますます一般的なことにしか答えない、気の利いた回答をしない、となります。
ご本人に寄り添える立場である司法書士なら、ご本人のプライドを傷つけないようにお伝えしたり、ご本人が気づかないうちに司法書士が自ら動いてフォローしたりします。

後で、確かにそのとおりだなと理解しても、それにしてもあのときの担当者の態度が傲慢で私には厳しかったとか、曖昧でハッキリしない人で不快だったとかと、感じることはないでしょうか。誰にでも性に合わない人がいるものです。一方、役所職員にとっては、良かれと思って突っ込んだ対応をすると、「最初にそう言えばいいのに。これだから役所は!」としっぺ返しを食らう事があります。やはりどこにでも書いている一般的な対応だったり、聞かれたことにだけ答える、のらりくらりで終始するのが身のためということになっていきます。
相手が司法書士なら、気に入った司法書士にチェンジできます。

どなたにでも、いつでも気軽に本音の相談ができる(性に合う)司法書士が知り合いにいれば理想だと思います。司法書士個人としても、普通に生活できるだけの報酬をいただき、地域の人に頼りにされるというだけで幸せなのだと思います。

なぜ最初に言わないのかという苦情

さて、司法書士が関与しない一般申請では、相談コーナーでOKが出て申請書を提出しても、審査の段階で半数以上は補正させられる状況です。会社・法人登記では郵送申請が多いためか、実に8割はある感じです。相談コーナーでは「これ以上相談コーナーで完全な状態まで直させるとトラブルになるから、後は審査で適宜やってください。」と役割をバトンタッチして和らげるというのが多いかと思います。
法務局の審査は、法務局の「登記官」という職員が裁判官と同様、自己の責任で判断し決定します。間違えば国家賠償となり、処分を受け左遷させられたりします。そうならないためにも神経を研ぎ澄まして審査しますから、何かしらの不備が見つかるのは普通にあります。
さて、数日すると担当官から補正の連絡が来ます。「最初に言えよ」とムッとなります。「相談コーナーでこれでいいと言われた(言ってない)」、「連携、対応が悪いのではないか」、「また仕事を休ませるのか。何とかしろ(便宜を図れ)」と、お決まりの批判パターンです。ご自身の期待どおりにならずストレスを抱えられたのでしょうが、補正をお知らせする側も苦情におびえる毎日なのです。
やはり法務局側としても、最初に、登記手続きがどういうものなのかを時間をかけて説明する必要があると思いますが、「補正は覚悟してください」と説明すると、「そうならないように相談しているのだ」と言われますので、簡単ではないです。

▶登記は裁判と似ている

登記は証拠書類と申請書に書かれたことのみで審査します。その限られた材料の枠内で理論が積み重なっています。普段の生活で私たちはそんな風に考える習慣はありませんから、直ぐに理解できるものではありません。

制度の本来の目的は、登記した結果を未来に向けて公示する(財産を守る。取引の安全を守る)ことです。本人申請する方の一時の便宜に走り、真実でない登記がされるおそれが高まれば、制度の信頼性が失われることになります。

我が国の登記制度は、民事裁判の手続きを原点としているのです。民事訴訟では、裁判官は当事者が主張したことしか審理の材料にしませんし、そのための証拠も当事者が提出しなければなりません。主張に反する事実があったとしても、それを主張しなかったり、証拠として提出しなければ、事実と異なったままで勝敗が決してしまいます。登記制度も同様です。

登記が民事訴訟と大きく異なるのは、登記における証拠書類は法律で決められたものに限定されているということです。そのため、申請前でも登記されるかされないかの結果を予測できるので、迅速な取引が可能となります。我が国経済の発展のための基礎となった仕組みとも言えるのです。
また、民事訴訟では当事者間で勝敗が決まれば、強制執行の手続きをしない限り判決書という紙が渡されるだけで終わりですが、登記は公開され、様々な活用が官民でされるため、真実を反映した正しい内容であることが求められます。

真実は何かということは、目の前にある書類のみでは確実ではありません。法律の専門家である司法書士が時間をかけて当事者から様々なお話をうかがうのはこのためです。そのためにも依頼者との十分なコミュニケーションと信頼関係が大切です。法務局職員に対し、短い相談時間で正しい法的判断を求めることは問題だと言わざるを得ません。事実、最近の法務局の相談コーナーには、法律的判断を要する相談には応じられないと明記しています。

以上のことが曖昧なまま、ご本人のご希望とご都合のまま本人申請がされがちなのが現状です。

不動産登記において司法書士は、ご依頼者の権利を保護し、トラブルの発生を防止し、正しい登記が速やかに実現されるよう、登記制度の実質的な担い手として、不動産登記に関わる様々な場面で、迅速かつ適正な手続きを行い、皆様の大切な財産を守ります。

▶本人申請の典型例

最近は言った言わないのトラブル防止のため、電話での相談は受けないようになっています。また、電話相談に応じれば30分から1時間かかることも多く、わずか数名で事件処理している状況ですから、この間、審査事務は中断し、他の登記の完了が遅れれば多大な迷惑をかけてしまいます。その分の時間は、残業で処理しなくてはなりません。公務員であっても労働者ですからサービス残業は許されません。運良く電話を聞いてもらえたとしても、職員は細かな経緯を知らず書面も見ていないのですから、話がちゃんと通じていないと考えたほうが良いです。結局、無駄になるのが実態です。

登記申請書は一字一句の違いでも補正しなければならず、完全なものの作成が求められます。最新の注意を払って申請しても一度でOKは出ないのが実情です。手慣れた司法書士の申請でも間違いが発見されます。
申請書は、手続きそのものに不正が無いこと、または訴訟になった場合の証拠として、法務局に30年保管されますから、そういう意味でも完全なものにする必要があります。とにかく登記が通ればよいという審査はしません。ですから、誤りを指摘されることは、本当はありがたいことなのですが、この点も一般の方の期待とかけ離れているようです。

下の表のとおり、登記の処理には多くの行程を経ます。同じ職員が全行程を最後まで担当することはありません。中にはウマの合わない職員もいるでしょう。人によって説明の仕方や受け取り方は違うものです。それを「言うことが違う!」と感じてしまった時の憤りというかストレスは、押さえきれなくなることがあります。人生は有限です。そういう所には近づかないのが賢明と私は思います。

回数 内 容 注 意 点
1回目 手続きの概要を知る 売主と買主が契約する、親子で贈与の相談に行く、遺産の分配をどのように進めればよいか、などの相談をする所ではありません。税金、契約書に貼る印紙の額などを法務局に聞いても分かりません。
2回目 登記事項証明書を入手する 現在の登記内容が分からなければ進められません。登記申請したい土地建物がどれなのかは、ご自身で特定する必要があります。法務局は、この土地建物に申請してください、とは言えません。
3回目 申請書を作成し見てもらう 添付書類を集めるためにあちこちの市町村役場に出向く必要があります。集め方を法務局に聞いても分かりません。
4回目 不足の添付書類を入手する 申請内容によって添付書類は異なります。書類の内容を見たところ、更に必要な書類が判明したり、当初予定した申請形態と異なることが分かって最初からやり直しになることもあります。
5回目 最終確認を受け提出 一応、審査に耐えられる状態に仕上がれば申請します。
6回目 補正の説明に出向きます 一字一句の違いでも補正になります。
電話では補正内容が正確に伝わらないことが多くトラブルになりやすいので、出向いて説明を受けるのが無難です。
7回目 不足書類を揃えて来庁し、申請書を訂正します 数日以内に補正しなければ原則取り下げまたは却下です。納付した登録免許税の還付のために、税務署とやりとりが必要になることがあります。
8回目 本人が出向いて登記完了後の書類を受け取ります 補正完了後、数日後に登記は完了します。相当注意して最初の補正連絡をしていますが、一般申請の場合は意外な誤りが多く、最終決裁の所でさらに誤りが発見されて再度補正になることがあります。文字一つでも法務局職員が申請書に手を加えることは絶対にできません。
登記完了後は、必ず本人が出向いて完了書類を受け取ります。本人が無理ならば改めて委任状を作るために相談を受けます。
相談の予約 逐一予約が必要です。年々混み合ってきています。法律相談はできないので、期待した結果にならず無駄足になることが多くなっています。

登記に関連した手続きや届け出も多々あります。しかし法務局職員はいったいどんな手続きが他にあるのかよく知りませんし、知らないので教えようがありません。

ご自分で登記された方の生の声ですが、初めから司法書士に依頼しておけば良かったとの感想をたくさん耳にします。無用なストレスを避け、時間をもっと有意義なことに使いたかったとの思いではないでしょうか。実はそれを受けとめる行政側もその分の時間を費やしています。これは行政コストとなって結局、税金で償われます。