行方不明者、認知症の方や未成年者がいる

▶行方不明者がいる場合…「不在者財産管理人」の選任、「失踪宣告」

遺産分割協議は相続人全員での話し合いが必要です。行方が分からない方がいれば全員での話し合いが出来ないので、相続の手続が出来なくなってしまい、せっかくの預金が宙に浮いてしまいます。

最高裁判所平成28年12月19日決定

共同相続された普通預金債権、通常貯金債権および定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる。

行方が分からない方については、不在者財産管理人が選任されると、遺産分割協議ができるようになります。
失踪宣告は、行方不明者を法律上、死亡したものとみなすための制度です。失踪には、「普通失踪」と「特別失踪」があります。普通失踪では、不在者(行方不明者)の生死が7年間明らかでないときに、家庭裁判所が、利害関係人の請求により失踪宣告をできるとされています。失踪宣告がされると、普通失踪の場合には、行方不明になった日から7年間が経過したときに死亡したものとみなされます。失踪宣告により相続が開始しますから、失踪者に相続人がいれば、その相続人が遺産分割協議の当事者となります。

1.認知症などで判断能力が失われている相続人がいる…「成年後見人」

認知症などにより判断能力が失われている相続人は、自分自身で遺産分割協議に参加することはできません。そうした状況の方に、強引に書類の判子を押させた場合、当然無効です。そこで、成年後見開始の申立てをします。そして、選任された成年後見人が、成年被後見人(相続人)を代理し遺産分割協議をすることになります。

2.未成年者が遺産分割協議をする場合…「特別代理人」

未成年者は、財産上の法律行為(契約など。遺産分割協議も)をする場合には、原則として親権者が法定代理人となって手続きを行います。遺産分割協議は相続人全員で行いますが、親権者も協議に参加することが普通です。この場合、親権者は未成年者の法定代理人となることはできません。親権者が自らに有利な協議内容にして未成年者の立場でも同意できてしまい、未成年者に不利な内容の協議を押し付けてしまう可能性があるからです。 この場合、家庭裁判所に申立てをして「特別代理人」を選任することが必要です。特別代理人は未成年者ごとに選任しなければならないため、未成年者が2人いる場合は2人の特別代理人の選任が必要です。 特別代理人になる人は特に制限はなく、遺産分割協議に利害関係のない人であれば、未成年者と親族関係がある人でもかまいません。特別代理人候補者として記載した人がそのまま選ばれるのが普通です。 特別代理人の選任申立ての段階で遺産分割協議の案を家庭裁判所に提出しますが、その内容が未成年者に不利なものであった場合は特別代理人の選任は認められないことが通常です。不利な内容というのは未成年者の法定相続分よりも下回ることです。夫が亡くなった場合、妻だけが名義の全てを取得するというのは基本的には認められません。

特別代理人の選任申立てに必要な書類
(1)特別代理人の選任申立書
(2)未成年者の戸籍謄本
(3)親権者の戸籍謄本
(4)特別代理人の候補者の住民票
(5)遺産分割協議書(案)
(6)申立費用(未成年者1人につき800円の収入印紙)
(7)遺産分割協議書に記載した財産の資料、その他

3.不在者財産管理人を選任する場合とは

失踪宣告は、単に音信不通で連絡先が分からないといった程度では利用できません。
行方は分からなくても生存していることが明らかな場合や、失踪宣告の要件を満たしていない時には、不在者財産管理人の選任の申し立てを検討します。不在者財産管理人が選任されれば、その管理人が遺産分割協議に加わることになります。
不在者財産管理人の申立ては、1週間や1ヶ月程度ではだめで、概ね1年以上行方不明であれば可能です。
不在者財産管理人には、利害関係のない被相続人の親族を候補者とすれば、そのまま選任されるケースが多いようです。しかし、管理人の事務は繁雑ですし、専門家の支援が無いと各種申立も難しいため、当事務所の司法書士を候補者としていただけます。
特に、公共用地として提供する場合など、不動産登記に絡んで選任される場合は、買収事業を行う官公庁との連絡調整を伴い、厳格な期限があるため失敗が許されず、登記手続に詳しい司法書士が適任です。
不在者財産管理人が遺産分割協議を行うには、協議の内容についての家庭裁判所の許可が必要になります。行方不明者に不利にならないように、最低でも法定相続分は不在者のためにとっておかなければなりません。どのように財産を配分するか、不在者の取り分が少ないと許可が得られない可能性が高いです。預金だけならまだしも、相続財産に不動産が含まれると大変難しくなってきます。どのように配分すれば許可を得られるかが腕の見せ所でもあります。

不在者財産管理人の選任申立てに必要な書類
(1)不在者財産管理人の選任申立書
(2)不在者の戸籍謄本
(3)申立人の戸籍謄本
(4)不在者財産管理人候補者の戸籍謄本と住民票
(5)不在の事実を証明できる資料(行方不明の経緯を現地調査します)
(6)利害関係を証明できる資料
(7)財産目録や不動産登記事項証明書など
(8)申立費用(800円の収入印紙・切手)
(9)遺産分割協議書に記載した財産の資料

4.報酬

報酬は、手続きの内容によって上下します。 当職が不在者財産管理人に選任された場合の報酬は、裁判所が金額を決定して不在者の財産から支払われます。