価値の無い土地の手続きに協力しない相続人がいる

このページで紹介する方法は、次の場合の相続手続きに限ります。

①相続手続きの連絡がとれず、郵便で協力依頼をしても無視される。
かつ、
②明らかに価値の無い不動産

反論が予想されたり、連絡をとれなくもないのに、不仲を理由に、いきなり訴訟はこじれます。遺産分割調停を検討しましょう。
調停をしても、財産の分配方法などで争いになるようであれば弁護士に依頼しましょう。
かなりの手数がかかり費用も必要ですので、「あきらめる」のもありと思います。
そもそも価値の無い土地建物に費用と手数をかける意味は無いかもしれません。

▶価値の無い不動産の相続は訴訟で解決させる

相続人全員から実印を押してもらい、印鑑証明書を受け取らないと相続の手続きが出来ません。誰か1人でも、連絡をしても無視されれば、手続きが出来なくなります。
このような方には、訴訟を提起して進めることを検討できます。訴訟さえも無視してもらえばよいのです。この判決書で登記名義を変えることができます。

不要な不動産の相続はしたくないから協力はするが、法律事務所を名乗った詐欺事件などもありますから、他人に印鑑証明書は渡せないと考えている方が増えていますので、むしろ訴訟の方法で印鑑証明書を使わずに手続きが出来てよかったと感謝されたりします。

ただし、兄弟姉妹間で連絡はとれるし、遺産分割案に賛同はできているが、話をしただけで口げんかになるような関係というのもよくあることです。身近だからこそ遠慮が無く言いたい放題になってしまうのでしょう。そこは腹を立てずに、相手に言いたいことを言わせてあげてください。腹が立っても決してその誘いに乗らないことです。そのことを当職と約束していただきます。
関わりたくないからと何の連絡もせずに司法書士に丸投げすることは絶対にさけていただきます。どうして連絡をしてこないのか、何か企んでいるのかと思われてしまうでしょう。

登記訴訟に詳しい当事務所の司法書士は、簡易裁判所における民事事件(訴額140万円まで)の訴訟に限りますが、ご本人に代わって訴訟の代理人となれますので、ご本人が裁判所に出向くことなく終了します。訴額を超える場合は代理人になれませんが、ご本人が1回だけ裁判所に行っていただければ同様に手続きを進められます。

1.生前贈与や時効取得している

遺産分割協議は相続人全員での話し合いと、手続きには実印と印鑑証明書が必要です。ところが疎遠な親族は、相続財産が不動産だけで預貯金が無いと知り、欲しいものが何も無いのにもかかわらず、協力依頼をしても無視されることが多くなっています。疎遠な人に印鑑証明書を送りたく無いのでしょう。
遺産分割調停を申し立てる方法がありますが、相応の時間がかかります。
そこで、時効取得や生前贈与をしているのであれば、土地建物の登記名義を変える旨の訴訟を起こします。相手が何も反論をしなければ裁判に勝ちます。贈与は登記をしなくても口約束でも成立するので、生前、老後の面倒をかける代わりに贈与したとか、他の親族もそのように認識していることがあると思います。
田舎の土地建物を相続したくない人が増えている時代です。他の相続人が相続財産に関心が無いことが見込めればこの方法を検討できます。

2-1.遺産分割協議書に印鑑を押してくれない

遺産分割協議は口約束でも成立します。話合いで遺産分割に了承したのに、感情的なもつれで協議内容は変わらないが協議書を作らないと言い出されたような場合は、拒否している相続人を相手に所有権確認訴訟を提起し、判決書理由中に遺産分割協議により当該不動産を相続した旨の記載があれば、その勝訴判決で所有権移転登記を申請することができます。

参考先例 遺産分割による相続の登記における相続を証する書面

●相続人全員で遺産分割協議書を作成した後そのうちの1人が捺印を拒否した場合、不動産を取得することとされた相続人は、所有権確認の勝訴判決(理由中に遺産分割協議により当該不動産を相続した旨記載あり)と遺産分割協議書※を添付して単独で相続による所有権移転登記を申請することができる。
(平4.11.4、民三第6,284号民事局第三課長回答)
※相続人全員を所有権確認訴訟の当事者とすれば、当該訴訟の勝訴判決の判決書のみをもって相続登記が可能とされています。

●共同相続人甲、乙、丙、丁において、乙、丙及び丁の相続放棄を証する書面を添付して、甲の単独名義に所有権移転の登記をしたが、実際は甲及び乙との遺産分割協議により乙が相続すべきものであった。この場合、これを乙名義に更正するには、

1、乙は甲に対し、甲名義の所有権移転登記の抹消手続を命ずる判決を得、乙単独で申請することができるが、さらに乙名義に相続登記をするには、乙が単独で、戸籍謄本、丙、丁の相続放棄を証する書面及び甲との遺産分割協議書等を添付して申請する。

2、「甲は乙に対し、甲名義でされた相続登記を乙名義に更正せよ」との判決を得ても、この登記をすることはできない。

3、「甲は乙に対し所有権移転登記手続をせよ」との判決を得た場合は、判決理由中において乙が相続により取得したのを誤って甲名義に所有権移転登記がされたものであることが明らかであるときは、登記義務者を甲のみとし、登記原因を「真正な登記名義の回復」として、判決による乙の単独申請により甲から乙に所有権移転の登記をすることができる。

(昭和53.3.15、5 民三第1,524号民事局第三課長回答)

価値の無い不動産だからと手続きに協力しない相続人に対しては、口頭でも良いので同意を取り付けておけば活用できそうです。訴訟を提起して、協力しない相続人が何も反論せず、訴訟を無視してくれればこちらが勝訴します。

2-2.遺産分割協議書に印鑑を押してくれない
(予め法定相続分で登記する)

2-1のように、判決書理由中に遺産分割協議により不動産を相続した旨の記載が見込めない場合は、この項目の方法を検討します。協力してくれない相続人がいても、とりあえず任意の相続人の一人から法定相続人全員を共有者とする相続登記を申請することが可能なので、最初にこの登記をしてしまいます。次に、相続人全員(協力してくれる相続人を含めて)に対する遺産分割や持分放棄を原因とする持分移転登記手続請求の給付訴訟を提起して、全ての相続人が何も反論せず、訴訟を無視してくれればこちらが勝訴します。2-1のように、判決書理由中に遺産分割協議により当該不動産を相続した旨の記載がされなくても、登記可能です。
協力しない相続人のみを相手にした訴訟提起も可能ですが、登記手続での手数を考えると全員を訴えてしまった方が簡便かも知れません。

3.遺産分割協議書に実印を押さない、印鑑証明書を交付しない

遺産分割協議書を作ったのに、署名だけでハンコを押さない、押しても認印、印鑑証明書を送ってくれない人が増えています。知らない書類にハンコを押してはいけない、印鑑証明書を渡しては行けないとされる時代ですから困ったものです。
このような場合は、遺産分割協議書真否確認の訴えを提起し、その勝訴判決をもって、交付しない相続人の印鑑証明書に代えることができます。
司法書士は、この訴訟の代理はできませんが、訴状を作成してご本人が訴訟を行うことのお手伝いができます。相手が反論しないことが明らかであれば、1回だけ法廷に行っていただきます。
ただし、不動産の所在地や被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所に訴訟提起できる可能性はありますが、裁判所の判断で相手の住所地の裁判所でなければ提起できないとされる場合があります。遠方ですと費用的に難しくなってきます。そのため、2の方法をとることが検討できます。いずれも手数的には大差ありません。

参考先例 農地の相続による所有権移転登記申請の取扱い

遺産分割協議書を添付して、相続による所有権移転登記を申請する場合において、遺産分割協議者の一部の者の印鑑証明書を添付することができないときは、その者に対する遺産分割協議書真否確認の勝訴判決をもって、その者の印鑑証明に代えることができる。
(昭55.11.20、民三第6,726号民事局第三課長回答)。

法定相続分による相続登記がされている場合、拒否している相続人に対する持分移転登記手続請求の給付訴訟を提起することも検討できます。

▶報酬

いろいろな方法がありますので、事情に応じて使い分けます。一度でも遺産についての話合いをしたのであれば、2-1か2-2が適当でしょう。一度も話合いをしていない場合は1の方法を検討します。ちなみに1の方法は、相続人以外の人に直接取得させることも可能です。

送達にかかる切手代だけで相手方一人につき5000円は見込む必要がありますし、戸籍の収集費用も必要です。裁判所に提出する戸籍は有効期限が3ヶ月ですので、二度取得することを予定しなければなりません。相手が40人いれば、実費だけで50万円程度を見込む必要があります。報酬はもっと高額になりますが、得られる利益と比べて費用をかけてまでも進めるか、あきらめるかを検討しましょう。